「審判」「城」などでも有名なフランツ・カフカの作品です。
降りかかる不条理に対して主人公が何を思い、どう行動するか。
そして、それを取り巻く家族の反応とその悲しい結末。
そのような描写は鋭くかつユーモアに富んでおり、文学界に新風をもたらしたのは理解できるのですが、物語の展開が「当然の結末」だらけで意外性がなく、その点の面白さが欠ける小説でした。
あらすじ
ある朝目覚めると、グレゴール・ザムザは一匹の巨大な虫に変身していた。
真面目な勤め人だったグレゴール。
失業中の父の代わりに一家を支え、妹を音楽学校へと進学させるべく辛い仕事に耐えていた。
しかし、変身してしまった彼を家族は恐れるようになる。
妹のグレーテだけがかろうじて世話をしてくれるものの、虫になってしまったグレゴールの人間性は次第に失われていく。
一家の生活も困窮していき、金策として、家の一部を客人へと間借りさせることにしたザムザ一家。
ある日、間借り人をグレーテがバイオリンでもてなしていると、そこにグレーゴルが降りてきて.......。
感想
読む人によって様々な比喩を想起させる作品です。
突然、大病を患って要介護になってしまった人や、働き過ぎて精神病になってしまった人。
あるいは、不登校やニートも連想できるという主張。
少しネット上を廻っただけでも様々な見解がありました。
そのどれもが正解なのでしょう。
ある日突然、あるいは徐々に「変身」してしまった人々の苦悩、そして周囲の反応は現代にも通じるものがあると思います。
しかし、問題なのはただ「通じる」だけだという点。
家族が変身したグレーゴルを忌み隠そうとし、最終的には見捨てて新しい生活を始める。
悲劇的かつ暗いユーモアが引き立つ展開ですが、あまりにも当然すぎる結末です。
朝起きたら突然に巨大な虫へと変身していた、という初期設定は驚かされるものですが、それ以外の部分、特に物語の起伏や結末の衝撃などで読者の心を揺さぶったり、人生観に疑問を投げかけたりするようにはなっていません。
斬新なのは初期設定だけですから、上述した「変身してしまった人々」に深い思い入れがある人々には訴求するかもしれませんが、一般読者に対しても魅力的だと感じてもらえるような「物語」を主体とした小説作品としての普遍的面白さがあるかと言われれば疑問です。
評価されている理由はわかりますが、誰にでもオススメできるわけではないという意味では点数を高くすることができない作品でした。
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